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破断試験報告 会報6号(平成17年8月)  倉島 一
 この無銘脇指〔刃長1.8尺、目釘穴が刀位置よりも下がっていることなどから末古刀とおもわれる〕は、発見届け済みの後持ち込まれ、話のなりゆきでたまたま荒砥を掛けたところ、身幅の半分位に達する刃切れがありました。
 日本刀にとって刃切れは致命的欠点であることを所有者に告げ、無銘であることもあり、破断試験に使わせてほしいむねお願いし、了承を得ました。
 刃切れ部から折れて飛ぶ恐れもあるので先の方に新聞紙を巻き、いわゆるみね打ちで刃切れ部を石に打ちつけてみました。10数回試しましたが、刃切れ部の口が開くのみで、破断はしませんでした。
 みね打ちの場合、力の逃げ場がない為、棟の『物打ち』を含め、どこで打っても衝撃があり、特に茎を素手で握って試した為、何度も打ち付けると持っていられないほどの衝撃がありました。又途中で刃切れ部の切先寄りをみね打ちで試したところ、一回で刃切れを起しました。
 焼刃部は圧縮力には強く、引張力には弱い為と思われます。今回の結果から日本刀は棟に衝撃を与えると刃切れを起す危険が大であるので、急所とも言うべきところをわざわざ使うような、みね打ちはありえないものと思います。
 次に、熱処理のハンドブックによれば同一の材料〔鋼〕を水焼入れした時の硬さを10とすると、油焼入れでは3であるとありました。
 水焼入れしたものは焼き戻しをするなど単純ではありませんが、目安にはなります。日本刀は水焼入れによって 刃の鋭利さが得られますが、その鋭利さと背中合わせに何がしかの刃こぼれと、状況によっては刃切れを起す可能性があります。しかし、この脇指のように刃切れが起きたとしても破断しない日本刀が望ましい。
 余談になりますが油焼入れされた鉄製の武器は、切れ味は劣るものの丈夫さは勝り、怪力の持ち主がかなり手荒く扱っても、刃がつぶれたり変形することはあっても破断はしないものと思われます、三国志の関羽の大薙刀は鉄製で、油焼入れされたものではなかったかと思います。 
 日本の先人は丈夫さよりも切れ味を選択し、日本の文化を根幹で支えてきたものは切れる刃物であるとの指摘もあります。
 

刀の棟を石に打ちつけた状況


刃切れ部分の開口状況


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