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物打ちとは 会報5号(平成17年5月)  倉島 一
 目を通した範囲の刀剣書等では、「物打ち」として、刀の図で横手下のある部分を指しているばかりで他に何の説明もありません。「物打ち」を最も良く説明出来るものとして、故橋本昌直氏(研師・夢想神伝流居合道師範)から教わった方法を以下に紹介します。        
 それは拵付の刀で、木の角を横手辺りから順次鐔近くまで軽く「コンコン」と叩いてみるものです。横手から下がるにつれて、ある所で最も締まった音になり、更に下がると音が濁り大きくなります。この音の最も締まる所が、その刀の「物打ち」です。この部分では、刀を握っている手に伝わる振動(衝撃)が最も少ないことが判り、また周りで見ている人にも音の変化を知らせる事が出来ます。         
 「物打ち」とはどうゆうものかを説明するには以上で十分と思いますが、蛇足ながら、実はこれは日本刀に限ったものではなく、例えば野球のバット、テニス、バトミントン、また卓球のラケット、更にゴルフのクラブ等にも共通した力学的特性です。野球のバットはこの部分を「芯」と言い、ゴルフのクラブではスイートスポットと呼ばれるものです。         
 この力学的特性の解析にはコンピューターが必要とされるものですが、前述のように刀の場合、音による簡単な方法で理解できます。         
 一口の日本刀の「物打ち」は一点です。しかし日本刀は、刃長、茎長、身幅、重ね、帽子の大小、など其々異なります。従って一般化して「物打ち」の位置を語るには、少し無理があります。一方研上がっている日本刀を一口ずつ、例え「コンコン」程度でも試してみる訳にはいかない事などを考慮し、経験を元に一つの目安として次に述べます。         
 日本刀は本来拵が付いているものであり、その状態で刃長の六対四から七対三の間に「物打ち」があります。(薙刀を除く)例えば二尺三寸の日本刀の「物打ち」は切先より六寸九分から九寸二分の間にあり、三尺の太刀の場合は切先より九寸から一尺二寸の間にあります。この太刀を二尺三寸に磨上げた場合は、前述の位置になります。         
 野球のバットでボールを打つ時、芯を喰った時はほとんど手ごたえなしにバットを振り切れ、その人なりの最大飛距離が出ます。芯を外した時は手がしびれたり、バットが折れることもあります。日本刀はバット等とは刃があることで大きく相違し、「物打ち」以外の位置で切っても、刃が斬り通れば問題はありませんが、刃が途中で止まった場合は衝撃があります。         
 その結果、刃の損傷や手の内が狂うことにより曲がりを起し易くなります。これに対し「物打ち」で斬った場合は、最も刃と手に衝撃が少なく、無理がかかりません。尚「物打ち」よりも刃長の中程で斬った方が量は斬れます。竹を例にとれば、袈裟に「物打ち」で斬って、直径一寸五分が限度とすると、中程で斬った場合は直径二寸が斬れます。但し、刃が途中で止まった場合は前述のようになります。         
 刀剣鑑賞の他、剣道、居合、截断、関係者は基礎的なこととして「物打ち」とはどうゆうものか知っておく必要があると思います。  
 

刀で木の角を叩いている状況


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